シンオウ徒然道中記・12
ダイヤモンド・パール
シンオウの港から朝一番の船が出航する。ブソンとバショウは、静かに離れていく島をデッキからながめやった。
心地よい風が二人の体をなぞるように吹いていく。なのに、遥か彼方にそびえる高い山は氷の白を身にまとっていた。
「山には雪が積もるのに、下界は夏の陽気…不思議な島でしたね。ボスは、ここに勢力を拡大するおつもりなのでしょうか」
「さあな。今回の任務は直接そいつとは関係ねぇだろうけど、まったく考えてないわけでもないだろうさ」
二人に与えられた任務とは、シンオウのいくつかの博物館や資料館にある貴重なポケモンの化石から、「核」と呼ばれる部分を採取する事だった。
シラヌイ博士によると、それはポケモンの生態系に関する研究において大変重要な資料となるらしい。
「ダイヤでありパールでもある…か」
つぶやくブソンの言葉に、バショウは不思議そうな表情で口を開く。
「なんの事ですか?」
「シラヌイ博士が言ってたんだよ。シンオウは奇跡の土地…神の住む場所…だってな。ダイヤモンドの輝きとパールの気品を備えた島なんだとさ。まったく…ロマンチストなおっさんだぜ」
からかうように笑う豪快な男に、しかしバショウは至極真面目な顔で、
「神と呼ばれたポケモンの土地ですからね。博士の言いたい事はなんとなく分かりますよ」
相棒の意外な反応に、ブソンは「おいおい、やめてくれよ」と口ごもりながら肩をすくめて見せた。
二人は、これからボスであるサカキのもとへ任務終了の報告に行き、そのままジョウトのコガネシティに帰る予定だ。
そういえば、ムサシとコジロウの仕事をボスに報告しなければ…と思ったところで、ブソンはふとある事に気づいた。
「ロケット団はシンオウには入っていないのに、コジロウ達はなんであそこにいたんだ?」
だが、バショウもそれは分からず、黙って首をかしげるばかり。
ムサシとコジロウは、シンオウに入った時点でサカキに報告をしていた。だが、当のサカキが二人の事も報告も完全に忘れていたため、これに関する記録が残されていなかったのである。
「もしかしたら、ボスに報告する事自体がヤバイんじゃねぇか?」
「私にはなんとも言えません。それに、報告は貴方がして下さいと話したはずですよ」
「汚ねぇぞ、お前」
すまし顔でそっぽを向くバショウを、相棒はいまいましげににらみつけていた。
結局サカキへの報告は、ブソンの判断で取り消された。
ムサシとコジロウの身分がはっきりしなかったからである。
バショウの同期という事実があったとしても、今の彼らのポジションが分からなければ、ボスに直接口利きするわけにはいかない。
「あいつらに悪い事しちまったなぁ」
「こればかりは仕方ありませんよ。こうなるとは、誰も予想していなかったのですから」
「あいつら自身もな」
その通りと言わんばかりに、バショウは黙って首を縦に振る。
今度二人に会ったら、なんと言って謝ろうか。
ブソンの脳裏に浮かんだ怒り顔のムサシとコジロウは、次の瞬間シンオウの資料館にあった石に変わった。
奇跡の土地…神と呼ばれたポケモン…ダイヤとパール…。様々な単語が浮かんでは消えていく。その神秘的な響きに、彼はいつの間にか引き込まれてしまったようだ。
「次はエンストに気をつけなきゃな」
「また行くつもりですか? シンオウに?」
「任務があれば…さ。少し興味が湧いたのかもしれねぇ…その神と呼ばれたポケモンに」
「…そうですね」
口元に子供のような笑みを浮かべ、バショウも小さくうなづく。
ダイヤモンド・パールの島。神にたどり着くのはいつだろう。あの少年少女達とは、また会えるだろうか。
不思議な高揚を感じながら、二人はコガネシティへの帰路についた。
シンオウ任務、これにてひとまず終了である。