シンオウ徒然道中記・11


それぞれの朝

絵板もの

激しかった雨も夜のうちにやみ、ポケモンセンターに明るい朝の光が差し込む。早い時間に出発するトレーナー達で賑わうセンターのロビーには、身支度を整えたサトシ達の姿もあった。
そこにジョーイがやってきた。
「サトシ君、タケシ君、ヒカリさん、お早う。貴方達に手紙を預かっているのだけど、ここで渡してもいいのかしら」
「お早うございます、ジョーイさん。自分達に手紙…ですか?」
不思議そうに首をかしげるタケシに白い封筒を差し出しながら、
「貴方達と一緒にいたあのご兄弟よ。なんでも急用が入ってすぐに戻らなければならないそうで、夕べのうちにここを離れたの」
言われて初めて、三人はあの青年達の姿が見えない事に気づいた。
「あれ…でも、バショウさんとブソンさんは車が壊れたって言ってたわよね」
「そうだよな。雨の中をどうやって帰ったんだろう…」
ヒカリとサトシの心配そうな声を、白衣の笑みが穏やかに打ち消す。
「センターの車をお貸ししたわ。港の近くのポケモンセンターに返しておいて下さいとお願いしたから、きっと大丈夫よ」
ああ、よかった…。安堵の溜息をつくと、少年少女達は早速手紙を開封し始めた。

年長である少年が、柔和な声で静かに読み始める。
「えーと…短い期間でしたがお世話になりました。急用が入り、挨拶もなくここを離れる事をお許し下さい。何もお礼は出来ませんが、心ばかりの物を同封しました。お元気で」
「ねぇ見て。チョコレートがたくさん入ってるわ」
封筒を覗き込んだヒカリが歓喜の声を上げる。中には、カラフルな紙で包まれた小粒のチョコが詰まっていた。
「こんな事をするのはバショウさんね」
彼の服のポケットにいつもチョコレートが入っていた事を、ヒカリは知っている。クールで物静かな姿には不釣合いにも感じるチョコの包み紙の色が、少女には印象深かったようだ。
「あれ…手紙の下に追伸があるぞ。えー…タケシ君のグレッグルにくれぐれもよろしく…」
「グレッグルに? なんで?」
「さあ…」
首をひねる三人。この文の意味が分かるのは、恐らくグレッグルのみだろう。

ロケット団のムサシとコジロウとニャースは、資料館から車で一時間ほど離れた街にいた。
軽装の旅行客を装い、小さな食堂で朝食を取っている。
「ねぇ…本当に今回の仕事…これでよかったのかしら」
パンを頬張りながら、ムサシは不機嫌な顔でつぶやいた。
「いいに決まってるさ。仕事は成功したし、これでボスにだって報告してもらえるんだぜ」
この朝食も、コジロウが仕事を引き受けた時点でブソンからもらった礼金で食べている。金欠の彼らには、それだけでも喜ばしい事なのだ。
しかしムサシは、自分の嫌いなバショウが絡んでいた事が気に食わないらしい。
「ボスへ報告って言ったって、本当にするかどうか分かったもんじゃないわ。バショウの事だもの…黙っているかもしれないじゃない」
「あいつはツンケンしているけどそんな事はしないよ。心配する事ないさ」
「…だといいんだけどね…」
気楽な言葉を並べる相棒を上目遣いに見ながら、ムサシはフォークの先にミニトマトを刺して口に運んだ。

「…っくしゅんっ!」
早朝で肌寒い港を歩くバショウが、小さなくしゃみをする。
「寒いのか? それとも、誰かに噂でもされているんじゃねぇかい?」
「つまらない事を言ってないで、乗船手続きに行きますよ」
からかうようにしゃべるブソンを横目でにらみ付け、青年は静かに口を開いた。
「コジロウ達についてのボスへの報告…本気なのですか?」
「一応約束だからな。あいつらが成功して俺達も助かったのは事実だし…不都合はねぇよな」
「不都合はありませんが、約束をしたのは貴方ですから報告も貴方がして下さい」
我関せずと言いたいのか。そっけない表情で淡々と言葉をつむぐ。やれやれ…と苦笑を浮かべ、ブソンはちょっと大げさに肩をすくめて見せた。
それでも、報告をするなと言わないところはまだ良心的だろう。もしかしたら、彼は口で言うほどムサシを嫌ってはいないのかもしれない。
(でも、あいつが素直にそんな事を口に出すわけねぇよな…)
先を歩く小柄な背中に視線を落とし、ブソンは軽く深呼吸をした。