バショウはメリープの夢を見るか・1
…っ! おい…!!
どこか遠くの方から、自分を呼ぶ声がする。
おい…! 起きろ!!
「おい、起きろバショウ! 生きてるか!!?」
ハッと目を覚まし、バショウは視界にあるサングラスが乗ったいかつい顔を凝視した。
「…あ……えっ…と…ブソン?」
ぼんやりとした口調で応える相棒の様子に、ブソンは大きくため息をつくと、少し安堵の表情を見せた。
「お前、頭が痛いと言って倒れたんだぞ。まだ痛むか? 具合はどうだ?」
「頭が…? いえ、別に痛みはありませんが…」
バショウは医務室のベッドに寝かされていた。いつもより大きく柔らかい枕をあてがわれているのは、彼が頭痛を訴えたからであろう。
しかしバショウは、まだ事態が飲み込めていなかった。なぜなら、彼にはそんなことを言った記憶がなかったからだ。
ロケット団施設の中にある小さなカフェで、バショウとブソンは向かい合ってホットコーヒーを飲んでいた。
ブソンの鋭い目が、時折ちらちらとバショウの顔を見る。
「なぁ…本当に何でもないのか? 青い顔で倒れ込んだから、けっこう心配したんだぜ」
「それはすいませんでした。本当に何でもありません。それより、なぜそんなことになったのか自分が知りたいくらいです」
明らかに困惑した様子で、バショウは自分の腕をさすりながらブソンに視線を移した。
「そもそも、何をしていて倒れたのかも覚えていないのですから…」
ブソンの説明によると、格納庫での作業中に落雷があり、一瞬ブラックアウトした時に誤って倒れたという。
起き上がってから頭痛を訴えたため、慌ててブソンが医務室へ担ぎ込んだ。それが30分前のことである。
「頭でも打って、一時的に記憶が吹っ飛んだのかもな」
コーヒーに添えられていたクッキーをかじりながら、ブソンは苦笑いを作って見せる。
その姿にバショウは少し違和感を覚えたが、理由はすぐに分かった。
「ブソン、今日はプリンを連れていないのですか?」
「プリン?」
「いつもクッキー欲しさに、ボールから飛び出してくるじゃありませんか」
ポケモンは道具というのが彼の持論だが、ブソンのやり方に口をはさむつもりもない。ただ、あの厚かましいピンクのポケモンが、クッキーがあるのに表に出てこないことを意外に感じていた。
「どうしたんだ、バショウ?」
片眉を跳ね上げ、ブソンが尋ねる。
「俺ぁ、プリンなんて持ってねぇぞ?」
何を言っているのか…と呆れたような冷めたその声に、バショウは混乱した。
「逃した」とか「捨てた」ではなく、恐らくは初めから「持っていない」のだ。
「プリンがいない…? ではミミロルは?」
「バショウ…お前、俺をバカにしているのか? 俺がそんなものを持つと思うか?」
「思い…ません。失礼…私が勘違いをしたようです」
「…だよなぁ? お前、頭の重要な部分を打ったんじゃないのか? 少し休んでこいよ」
明らかに不機嫌なブソンを刺激しないよう、バショウは「はぁ」と曖昧な返事をしながら手首をさすった。
青いシャツの袖に覆われた細い左手首には、打撲のようなアザが残っていた。