ペテン師は誰だ!・8

絵板もの

バンナイとの待ち合わせ場所は、コガネシティの一番大きな繁華街にあるデパートの前だった。
ここは、デパートへ訪れる人と駅へ向かう人が入り乱れて行き交う賑やかな所だ。あまりに人の数が多すぎて、かえって誰も目立たない。
「木の葉を隠すなら森の中…か…」
腕の時計を見ながら、バショウはひとりごちた。

突然、デパートの壁に設置されたカラクリ時計が時報を鳴らし始めた。小さなポケモンドール達が文字盤から出たり入ったりしながら、大きな鐘の音を響かせる。
子供達は大喜びで時計を見上げる。しかし、バショウとブソンには少々こたえる金属音だったようだ。
「…ったく、うるせぇにもほどがあるぜ。こんな大音量でよく苦情が出ないもんだな」
「総合的に見れば、時計の音より街の音の方が大きいですからね。こんなものは、騒音のうちには入らな…」
言いかけた時、背後に人の気配を感じバショウはハッと振り向いた。
そこに立っていたのは、ピンクの医療服に身を包んだジョーイの姿だった。

「…俺達に何か用か?」
上から見下ろす大男は、サングラスを指先で整えながら威嚇するような低音で言い放つ。だが、ジョーイは顔色ひとつ変えず、いつもの優しげな笑みを浮かべたまま、
「来て下さって有難うございます。お会い出来ないと思っていましたから、嬉しいですわ」
二人の男はギクリと肩を震わせると、今自分達の目の前にいるジョーイであるはずの人間を見つめた。
「貴方…バンナイ…なのですか?」
可愛らしいジョーイの口元に、悪意の混じった微笑が一瞬浮かんで消えた。
「今はポケモンセンターのジョーイですわ。立ち話もなんですから、どこかのお店でも入ります?」
(やられた!…バンナイめ…最初からそのつもりだったのか!)
バショウは努めて冷静を装っていたが、内心今日ここへ来てしまった事を激しく後悔していた。

怪盗と自ら名乗っている男の事だから、当然素顔で来るとは思っていなかった。
人を隠すなら人ごみの中だ。ごく普通の誰かに変装し、この人の波に紛れて話をするのだろうと…バショウはそう考えていた。
だが、彼はジョーイの姿で来た。
誰でも知っている人物だ。パッと見ただけで、彼女が実はバンナイだと思う人間などいるはずがない。
逆にバショウとブソンを知っている者がいなくても、「あのジョーイと一緒にいた男達」として、今この瞬間にも人々の記憶にその影が刻まれているかもしれないのだ。
二人は、まんまとバンナイのペースにはまってしまったのである。