ペテン師は誰だ!・9

絵板もの

「我々は、貴方と茶番劇を演じるほど暇ではない。用件はここで、手短に願います」
眉目秀麗な青年は、眉ひとつ動かさず淡々と言葉をつむぐ。
安易な誘いにのってこないだろう事は、バンナイも初めから分かっていた。彼は、バショウとブソンの顔を交互に見ながら口を開いた。
「用件とは例の事ですわ。簡単に説明しますと…あの美術館は過去に数回窃盗にあってます。そのため、特に重要な美術品においてはレプリカが展示してあるんです」
「…複製か。でも、そんな話は聞いた事ねぇぞ」
「ええ。内部の人間にしか知らせていないんです。私もそれを知ったのは、あそこにお勤めしてからですから…」
お勤めとは、美術館のスタッフになって入り込んでいた期間の事だろう。それを「勤め」と言い切るバンナイに、バショウは「この男はどこまで他人になりきれるのか」と思う。

「問題は、美術館の倉庫のセキュリティなんです」
ジョーイの顔は、少し困ったような微笑を浮かべた。これがバンナイでなかったら本当に可愛いと思えたろうに。
「石と台座はわざと離して保管されています。これを同時に持ち上げて、決められた秒数内に非常スイッチを切らないと、システムが自動で作動する仕掛けになっているんです」
つまり、単独で動くバンナイがばれないように盗むのは無理なのである。
それにしても…。バショウは、ふと疑問を口にした。
「その二つは、そこまで警戒するほどの貴重品なのですか? 我々には理解出来ないのですがね」

「石には生物学的価値が、台座には美術的価値があるんですよ。でも意外ですわ。そんな事も知らずに下見にいらしていただなんて。私はてっきり…」
突然、ブソンの手がジョーイの胸ぐらを掴んだ。最後のセリフに込められた嘲笑が金髪男のカンに触ったらしい。
「てめぇ…いつから俺達に探りを入れていたっ? 返答次第ではただじゃおかねぇぞ!」
「そんな事しちまっていいのか? ここにいるのは、バンナイではなくジョーイなんだぜ」
ブソンを見つめるジョーイの笑顔は、不敵な面構えという言葉がぴったりなほどあくどい。

「ブソン、さがって下さい。ここでは人目につきすぎてまずい」
チッと舌打ちをしながら、大男は乱暴にジョーイを離した。
「…あの日…貴方達を最初に見た時から、私と同じにおいを感じていました。恐らく下見だろうという事も。調べたのはそれからですわ。出入りしていた少年が「R」の車に乗っていた事を知り、貴方達の正体が分かったんです」
少年とはモンドの事だ。年相応に見えない容姿のため、本来の年齢より若く思えたのだろう。

「ではバンナイ…貴方の計画とやらを聞かせて頂きましょう」
「お、おい、バショウ…ッ!」
思いがけない承諾のセリフに、ブソンは慌てて相棒の細い肩に手をかける。
だが、チラリと自分を見た青い目から、バショウが何かを考えている事が分かったブソンは、「後で説明しろよ」と彼の耳元でつぶやいてため息をついた。