シンオウ徒然道中記・5
サトシ対ブソン
サトシはポケモンマスターに憧れる少年だ。
強さを求め数々のリーグ戦に参加してきた彼は、ここシンオウでもそのチャレンジ精神の消える事はない。
朝食もそこそこに、この元気な少年は体中にみなぎる力を持て余しているかのように急いた。
「ブソンさん、バショウさん! 俺とポケモンバトルして下さい!」
「サトシ! 二人に失礼よ!」
たしなめるヒカリの言葉に、少年は初めて自分の行儀の悪さに気づいたようだ。あっ…という顔でみんなを見回し、すぐに照れ笑いを浮かべながら謝る。
実際、サトシ以外のメンバーは誰一人食べ終わっていなかったのだから、ヒカリの文句も当然と言えよう。
「バショウ、お前やれよ」
ブソンの言葉に、しかし弟は綺麗な顔を黙って曇らせる。彼は、人前で自分のポケモンを出す事をひどく嫌っていたのだ。
「仕方ねぇなぁ…サトシ、俺が相手になるよ。ただしポケモンは一体のみ。それでいいか?」
「もちろんです! 有難うございます!」
そうして、バトルが始まった。
「俺はこのピカチュウでいきます!」
「それじゃ俺はこいつだ」
ブソンの投げたボールから出たのは、愛らしいまんまるな瞳のプリンだった。
「ピカチュウ、でんこうせっか!」
「プリン、体で受けてそのままうたう!」
ガシッ!
勢いよく当たってきた黄色を薄桃色の球体が全身で受ける。その反動を使って後方に跳ぼうとしたピカチュウの体が、しかし急にフラフラと揺れた。
「ピカチュウッ?」
「おっしゃぁ! 上手くいったぜ!」
プリンの特性メロメロボディが、直接攻撃を仕掛けたピカチュウに作用したのである。
続くプリンの歌に、ピカチュウはフラフラの状態のままで眠ってしまった。こうなると、次のターンには攻撃が出来ない。
「プリン、どくどく!」
ピカチュウの体が猛毒に犯された。この技のいやらしいところは、ターンごとに毒の威力が増す事だ。こうしている間にも、ピカチュウの状態はどんどん悪くなっていく。
「よし! ハイパーボイスだ!」
ヴォンッッ!
小さく可愛らしい口から、凄まじいソニックブームが飛び出した。
決して低いレベルではないこのプリンの、しかも大技である。毒に体力を奪われた今のピカチュウでは、致命傷にもなり得る。
もろに受けた衝撃で、ピカチュウはハッと目を覚ました。
「ピカチュウ、10まんボルト!」
「受けてもかまわねぇっ! ハイパーボイスだ、プリン!」
命中する10まんボルトに耐えながら、プリンはもう一度大技を繰り返す。それに耐えるだけの体力は、すでにピカチュウには残っていなかった。
「ピ…ピカチュウ戦闘不能! 勝者、ブソンさん!」
あまりにあっけないバトルに、審判役のタケシも一瞬言葉を詰まらせる。
しかし、一番驚いたのはサトシ本人だったろう。彼はプリンをみくびっていたのだ。
「有難うございました、ブソンさん。正直、プリンがこんなに強くなれるなんて思いませんでした」
一礼をすると、少年は自分のポケモンを抱えどくけしの薬を取りに走っていった。
「なんでもすぐ本気になるのが、貴方の悪いクセですねブソン」
「だって、バトルで手は抜けねぇだろう」
「そういう意味じゃありませんよ」
面白くなさそうに語気を強めた後、バショウは兄の肩越しから小声で言った。
「目立つ事をするなと言っているんです。貴方のプリンの強さは異常なんですから、変に彼らの中で印象に残っては困るんですよっ」
「分かったよ…」
ブソンのもとに寄ってきたヒカリとタケシを交え、四人はサトシを追うように歩き出す。
その後ろ姿を、草の陰から見つめる六つの目。
「あのプリン、ピカチュウに快勝してたぜ」と、青い髪の青年コジロウ。
「ピカチュウに勝つなんて、とんでもなく強いプリンなのニャ」と、人語を話すニャース。
「どうせロケット団のポケモン! そんな事はどうでもいいのよっ」
「まぁ、確かにこの場合どうでもいいんだけど…って、何を怒ってんだよムサシ…」
自らもロケット団であるムサシは、すっくと立ち上がると、
「なんで、ここにバショウがいるのよっ!」
歩いていく彼らの背中をにらみつけて、いまいましげに言葉を吐いた。