シンオウ徒然道中記・6


ふたりロケット団

絵板もの

「あたしはね、あいつがだいっ嫌いなの!」
コジロウとムサシ、そしてバショウは、ロケット団養成所時代に顔をあわせた同期だった。
エリートと呼ばれ常に周囲と一定の距離を置くバショウの姿が、ムサシには鼻持ちならぬ存在に思えたのだろう。
何度かバトルを申し込んだ事もあったが、その度に無視され続けたのも彼を目のかたきにする理由のひとつだ。
ムサシは口の端を大きくつり上げると、白い歯をむいて言った。
「ジャリボーイ達に、あいつの正体をばらしちゃおうかしら」
「バショウは怒ると怖いんだぜ。やめた方がいいと思うな、俺は…」
「ニャーもやめた方がいいと思うのニャ」
「なんでよっ。あんな奴が怖いなんて情けないわね、あんた達!」
「そうじゃないのニャ」
憤るムサシをなだめるように、ニャースは慌てて両手を左右に振って見せる。

「プリン使いの金髪男は特務工作部のブソン。つまり、あの二人は任務でここに来ているはずなのニャ」
「分かってるわよ。だから失敗させちゃおうって言ってんでしょ」
ニャースは驚いたように飛び跳ねて言った。
「特務はボスから直接命ぜられて動く事が多いのニャ。ニャー達が邪魔をして失敗したなんて事が、もしボスの耳に入ったら…」
「そりゃあ絶対マズイよな」
うんうんと頷くコジロウを横目でにらみながらも、彼女もニャースの言いたい事は理解出来る。
「…分かったわよ。でも、やっぱりあいつにひと泡吹かせてやりたいの。ここで会ったのも何かの縁。絶対にバトルさせてやるんだからっ」
拳を握りしめ天に向かって吠えるムサシを、もはや誰も止める事は出来ない。

サトシとヒカリは、相変わらず元気一杯に山道を歩く。少し遅れてタケシが、その後ろをブソンとバショウが追っていく。
「お子様は疲れ知らずでいいもんだよな」
汗で下がったサングラスを直しながら金髪男がつぶやいたその時。
「朝から元気がいいことねぇ」
道の脇の茂みから現れたのは、若い男女と一匹のニャース。白い服と、胸には真紅のRのロゴ。
「お前らロケット団っ!」
サトシの怒声にいち早く反応したのはブソンだった。
「ロケット団…だって?」
「人のポケモンを無理矢理奪う悪い奴らなんです! 危ないから下がっていて下さい!」
二人の青年を後方に残し、少年少女達はモンスターボールを構えて相手をにらみつける。
コジロウとニャースは目の前にいる子供達を見ている。しかし、ムサシの目は彼らを通り越した先の青年に向いていた。

鋭い視線でムサシを見つめたまま、バショウは右手の人差し指を口元に添えた。
『我々の事をしゃべるな』
ムサシはニヤリと笑った。
「そこの綺麗な顔のメガネお兄さん。あたしとポケモンバトルしない? もちろん断る理由なんて……ないわよねぇ…?」
「だめよバショウさん! こいつら、どんな汚い手でも使ってくるロケット団なのよ!」
だが、ヒカリの言葉にはまったく応えず、
「いいでしょう。その勝負、受けます」
外したメガネを無言でブソンに手渡すと、彼は少年少女達の脇を通り過ぎ一番前に立った。

ムサシは互いの息遣いが聞こえそうな程に体を寄せ、男の冷たい顔を覗き込んで囁いた。
「久しぶりねバショウ」
「…何が目的ですか?」
「あら、なんにも。ただ、あんたとバトルしたかっただけ。あんた、あたしとは一度もバトルしてくれなかったもんねぇ」
フッと女の口元が柔和にほころんだ次の瞬間。
それが合図かのように、二つの体は同極磁石の勢いでそれぞれの後方に跳びすさった。
「いくわよ、ハブネークッ!」
「グラエナッ、出なさい!」

そしてバトルが始まる。