シンオウ徒然道中記・8


あせり

絵板もの

山の中の小さなポケモンセンターに到着したのは、そろそろ夕刻に近い時間だった。
ポケモン達を休ませ、温かい食事を取り、それぞれが思い思いの時間を楽しみながらくつろいでいる頃、バショウは廊下の隅でブソンの顔をにらみ付けていた。
「あの二人に破壊工作を頼んだとは、どういう事ですか?」
口調こそ物静かだが、その抑揚のなさが、まるで地中深くうごめくマグマのようで恐ろしい。実際、彼はいつ爆発してもおかしくない状態だった。
ブソンは、頭脳明晰な弟ほど考えを語るのが上手くない。ゆっくりと言葉を選びながら、その口元から低音をつむぎ出す。

「俺達の仕事は、カセキの石から核とやらを取り出して持ち帰る事だ。取っちまえば、残った石に用はねぇしダミーがバレても関係ねぇ」
「置いてきたダミーで時間を稼いで、足がつく前にシンオウを離れれば問題ありません」
「そうしたいところなんだが、状況が変わったんだ。お前がバトルをしている間に配達局からメールが来てな…」
ブソンはポケットから小型通信機を取り出すと、ディスプレイをバショウに向けて見せた。

[特務工作部殿・先日配達した石について・装備部の手違いで試作品を送ってしまったとのこと。大至急回収、もしくは破壊されたし。特別配達局・モンド]

「試作品…なんてことを…」
苦々しい表情でつぶやくバショウに、ブソンも「…だろ?」と返す。
作戦に必要な備品は、すべて装備部が取り仕切っている。ダミーや模造品といった高度技術を要するものも、そのほとんどが装備部の担当だ。
完成品は、それこそ芸術的なまでに素晴しく本物そっくりな仕上がりである。ただし、そこに行き着くまでには試作品も数多い。だから試作品は完成品と間違われないよう、本体のどこかに「R」のロゴが入っている。
つまり、ダミーとして試作品を置いてしまったという事は、犯罪現場に明白な証拠を残したに等しいのだ。

「しかし、それなら私に一言相談してくれてもよかったのではありませんか」
「ああ、それは悪かったと思ってる。だが、俺達は時間が押している。今さらノコノコと現場に戻れるわけがねぇ。それで、あいつらにダミーの破壊を頼んだんだよ」
「だからと言って、よりにもよってムサシに頼まなくても…」
「あの女が嫌いなのか?」
「私が嫌われていますし、もともと馬が合いません」
そう言ってフウッとため息をついた時。
柱の影に気配を感じたブソンの目が、ぎんっ、と光を放った。
「誰だっ?」
だが、姿を見せたのは人よりもっと小さな生き物…ポケモンのグレッグルだった。

あからさまな舌打ちをし、バショウはその爬虫類を眼下に見ながら吐き捨てた。
「部屋へ行きましょう、ブソン。ここは空気が悪い」
「お、おい。いきなりどうしたんだよ」
グレッグルの横をすり抜け足早に部屋へ向かうバショウを、金髪男が慌てて追いかける。
「タケシのグレッグル…どうも我々を見張っているような気がします」
「…ガキ共が俺達を勘ぐっているって事か?」
「いえ…。グレッグル自身が、我々の何かに気づいた…とでも言いましょうか」
言われてみれば、グレッグルの視線はいつの頃からか常に特務に向けられていた気がする。
ブソンにも、あやふやながら心当たりと言えそうな記憶があった。

「そうなると、長居は無用だな」
「明日か…遅くとも明後日の夜までには、ここを離れた方がいいですね」
そんな二人の後ろ姿を、グレッグルの目が張り付き追いかけた。