日々是色々・4
そんなはずはないと憤りながらも、ブソンにはひとつだけ心当たりがあった。グラエナとの遭遇である。
ベトベトンの捕獲までは記憶にあるものの、グラエナにすっかり気を取られ、そのボールをどうしたのかまったく覚えていないのだ。
寝不足でもうろうとしていた事もあり、ところどころの記憶が曖昧になっている。
バショウの顔に、怒りとも落胆とも分からない色が浮かぶ。
その目がブソンを見る事はなく、彼は黙ったまま足早に控え室へ向かった。
規定数のポケモンが捕獲出来なければ、いくらここで待っていても不合格には違いない。
三度目の試験になるバショウには、ブソンの小さなミスが許せなかった。悔しかった。
しかし、それはブソンだって同じなのだ。
まして自分が犯したミス。バショウに対する申し訳なさと自身への怒りで、はらわたが煮えくり返る。
そこで彼はふと気づいた。バショウの悔しさは自分の三倍だという事に。
バショウも、ブソンだけが悪いわけではないと分かっていた。
彼の寝不足は自分の怪我が原因だ。すべては、不注意で崖から落ちた自分が悪いのだ。
ブソンは、棄権を口にした自分をここまで引っ張ってくれたではないか。最初から分かりきっている事なのに。
何か言いたげなブソンの目。言葉を発したいバショウの口元。
「悪かったと…思っているんだぜ、これでも」
「分かっていますよ。私だって同じですから…」
そしてケンカは終った。
「バショウ・ブソン組。一次試験合格だ」
突然の試験官の言葉を、二人はしばらくの間理解出来ないでいた。
この試験の本当の意味は、捕獲ではなくチームワークだったのだ。互いをフォローし、助け合い、そして冷静に対処する。任務に必要な二人の信頼関係が試される試験。
ボール紛失は、最初から仕組まれた試験の課題だったのである。
「道中の様子もすべてモニターで見させてもらった。まあまあの出来だな」
そう言って、試験官はモンスターボールをブソンに向けて差し出し笑った。
「抜き取ったお前のベトベトンだ。しっかり育てて使えよ」