特務、逃げるの巻・2
バショウは自分のモンスターボールを真下に向け、手持ちのポケモンの名前を叫んだ。
「ハガネール! ロッククライム!」
現れた鋼鉄のヘビは、二人の青年を空中で受け止めると、ほぼ垂直の山の斜面に自身の体を食い込ませ、硬質の突起で山肌をえぐりながら落下速度を落としていった。
「なんて奴らだ!」
崖の下を覗き込んで、ジャッキーは驚きとも呆れともつかない音を吐きだす。
空を舞う鳥ポケモンの中からピジョットをキャプチャすると、急いでロケット団の後を追った。
ハガネールは、削り落した岩や土で足場を固めながらやっと停止した。
煙のように揺れる茶色の粉じんは、ピジョットの起こす風で四方に飛ばされ散っていく。
予測しない行動を起こすロケット団を目の当たりにし、ジャッキーは彼らに近づくのをためらった。ピジョットの脚にぶら下がる自身が敵の格好の標的になるという事実も、ためらう原因のひとつである。
本部にはロケット団と接触した時点ですでに応援を要請していた。
今は、うかつに動かない方がいい。
「崖の上から下に移ったところで、逃げ場がないのは同じだぜ」
レンジャーの言う通り、ハガネールは山の急斜面で完全に孤立している。このままハガネールで山を下るとしても、追う側が全長9メートルの巨体を見失うはずはない。
二人同時に逃げ切るためのポケモンを彼らが持ち合わせていない事も、ジャッキーは知っていた。
だが、バショウは口の端を上げて、
「やはり追ってきましたか。ご苦労な事です」
なぶるような視線でジャッキーを見つめながら、銀の髪の青年はあざけりの言葉を吐く。
「ポケモンの力を借りる……レンジャーとは不便なものですね。周囲にポケモンがいなければ何も出来ないのですから」
言われるまでもない。まさにその通りだ。
孤立無援になったのは、たった一人でこの場にいるレンジャー……自分の方だった。
「切り札ってのは、最後の最後まで取っておくものなんだぜ」
得意げにそう言って、ブソンは軽快に指笛を吹いた。